「……なーんにも見えん」
めったに寄らなくなった公園のベンチにどかっと座り込みながら、空を見上げて小さく独り言ちる。
昔は、人見知りで自由時間は絵を描くか空を眺めて過ごしていたことを思い出した。
そのうち自由時間は焦るように誰かに話しかけて一人にならないように、あの頃思う普通から外れないように必死に動き出すようになっていた。
そうして、将来、損得、生産性云々、その言葉の意味も重要さも未だによくはわからないものが確かに自分に重くのしかかるように感じて、それらを追いかけて同年代と情報の、横と下を見続けている。
暇つぶしの道具を何ももたず、そもそも暇ができただけのちいさなわたしは、空を見て雲の流れるはやさとか、あの雲はお父さんが飲むビール缶に載っているあの動物に似てるだとか、ぼけっと上を見上げていた。
やりたいことも、やらなければならないことも何の選択肢も私のなかには存在していなかった。
今じゃ嫌でも選択しが浮かび、暇でありたいのに暇していたことを悔やみ、自責する。
まだ明るかった空が暗くなり、街灯の存在が目につき始める。赤紫色に小さな光が散っている。そのなかで動く主張が激しい大きな光は、UFOではなく飛行機であることはもう知っている。
空の色と雲を見て、もう少し雲は太陽を隠せとか、明日は雨が降りそうなのは勘弁してくれだとか、自分の都合に合わせたことしか浮かばない。
目に映る空には何の模様も見えず、目を閉じてぬるい風をただ聞いていた。
【空模様】
8/19/2024, 11:13:23 AM