テーマ:秋風 #2
「もうすぐ冬ね」
公園に座っていた私にそう声をかけたのは、隣りに座ったおばあさんだった。私は少し間があけてから
「そうですね」
そう答えた。おばあさんは優しく微笑んだ。
「私にはね、あなたくらいの孫がいるの」
おばあさんは遠くに見える山を見ていった。山の木々は紅葉していて綺麗だった。
「その孫が可愛くて仕方がない」
そう言って私に微笑むおばあさん。
「でもね」
おばあさんはシワシワになっている手を絡ませた。
「私は孫の顔が思い出せないの」
寂しげな顔をしたおばあさんを見て、私は何も言えなくなった。
「もうすぐで孫が帰ってくるの。しっかり顔を見て、おかえりって言ってあげたいんだけど…」
おばあさんの表情は曇っていく。
「大丈夫ですよ。きっと」
私はそう言っておばあさんを見た。
「そうかしら。もうだいぶボケてきちゃったからねぇ…」
おばあさんは苦笑いをする。
「話を聞いていれば分かります。どれだけお孫さんのことを愛しているのか」
私はおばあさんに視線を真っ直ぐ向ける。
「あらあら…ありがとうね」
おばあさんは優しい笑顔を向けて私を見た。
「ごめんなさいね。私のことを話してしまって」
立ち上がるおばあさん。
「いえいえ、いい話を聞けて私も嬉しいです」
私は去りゆくおばあさんの背中を見て涙をこぼした。
悲しくないはずなのに出た一粒の涙。その涙を冷たい秋風がさらっていく。
ーー孫が可愛くて仕方がない、か。
おばあちゃんが私を愛してくれているように。
私もおばあちゃんの事、大好きなんだよ。
私の顔は忘れてしまっていても、
そう思ってくれていることが聞けてよかった。
すっかり寒くなった秋風の中、心だけは温かくなった。
※この語り手はおばあさんの孫。覚えていないおばあちゃんに自分が孫ということを語り手は言わなかった。
おばあちゃんの本当の思いを聞けると思ったのかもしれない。
「私があなたの孫なんだよ」そんな言葉を秋風にのせて言えたなら。
11/14/2022, 11:14:36 AM