逃げてしまおう。この世界から。それがだめなら何処か遠くの街に。
そう現実から、親から、幼い弟と妹から逃げるように知らないバスに乗った。
バスの窓から見える知らない風景とバスの揺れが、とても心地よかった。
明日の学校のことも、今日の夕飯のことも、何も考えずただ、バスに揺られた。
全く知らない名前と、見たことのない田舎町を見て、ふと我に返った。バス代の230円を払い、知らない町の土に足を乗せた。
「あの。」突然後ろから話しかけられた。ハキハキとした、女性の声だった。
「ここの人ではないですよね。」白を貴重とした清楚という言葉が似合う制服。有名な女子校の制服だった。同い年位だろうか。背は俺のほうが高い。当たり前か。
「寝過ごしちゃって」おちゃらけて言ってみた。笑ってくれることを願って。しかし、彼女は顔をしかめた。
「今のバスが最後ですよ?」一つにまとめた黒髪と白色のスカートが風に吹かれて揺れる。夜空には星が光り輝き、街は月明かりを頼りに進むしかないほど暗い。
「︙嘘でしょ」俺の声は、自分でも掠れていたと思う。
2/28/2023, 10:17:55 AM