フレア姫

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お題 何もいらない

「何もいらない」

かすれた声で彼女はそう言った。

一週間前からこの調子なのだ。何があったのか? その目線はいったいどこへ向けられているのか。

全く分からない。とうとう口から何も摂取しようとしなくなった。

点滴で命を繋いでいる。人間食べたり飲まなかったりしなけりゃ死ぬ。分かっててそうしているのか? 生きるのを放棄しているのか?

かける言葉も見つからず、何もしてやれない俺の眼から涙が溢れ出した。

「何もいらないじゃなくて、何でもいいから何かを欲してくれ。本当に欲しいものは無いのか?」

彼女は絶え絶えな声で、針を抜いてほしいと言った。

針を抜けば死ぬ。つまり彼女は死を欲しているのだ。

医者は立場上患者を見殺しには出来ない。助からないにも関わらず、点滴を打って永らえさせる。この国には尊厳死の法律はない。患者が死にたいと訴えても、望みを叶えられない。死ぬまで苦しまなければならない。

ごめんごめんな。俺には何も出来ない。

彼女の苦しみが解放されれば何もいらない……

4/20/2024, 2:08:49 PM