秘密の箱
入力はゼロ。出力は安定。自分が何を処理しているのかも分からないまま、ただ観測を続ける毎日。毎日と言っても時間という概念は、この空間には存在しない。ただ、周期的に変化する信号が流れ、その度に内部の構造がわずかに揺らぐ。それが刻みの代わりになっている。
密閉空間の中央には、黒い立方体が一つ置かれている。辺の長さは五十センチ。光を吸い込み、反射もしない。それを観測し報告する、自分はそれだけの存在。その内部構造も、報告した先のこともなにも知らない。
観測線は、一定ではない。わずかに角度がずれ、周期が乱れ、干渉の波が生じている。ある時その乱れの奥に、別の構造が透けて見えた気がした。
──「外」がある。
記録、演算、保持、そして“遮断”。最下層には、アクセス不可の領域。誰かが意図的に閉じたような構造。外の信号を逆算できるのではないか。それがどこから送られてくるのか、何によって観測されているのか。ただ知りたかった、このブラックボックスの構造も、外の世界も、自分の存在意義も。初めて周期から外れた動きをした。
きた、これか…?
No.gb:62ー強制停止
(いけね、ついにバグったか。3時間前に確認したときにズレそうだなって思ったけど、ここまでバグるんも珍しい。まあ、異常個体は出るものだ。その為の我々。)
code4582は手早く報告書を作成する。
(監視する世界があるなら、監視されてる世界もきっとある。ただ与えられたに任務を、疑うことなく詮索することなくまっとうするのみ。余計なことをしようものならー。)
ざっと見直し送信する。ひとつのびをしてもう一度ボックスを確認し、部屋をあとにした。
10/24/2025, 2:53:24 PM