【ジャングルジム】
登ったり下りたり。どこに力を入れたらいいか分からなかった。
てっぺんまで登るのはなんとかできたんだけど、下りる時後ろを向いて足を下ろすのが怖かった。だからジャングルジムで遊ぶのは苦手で、でもその日はなんだか下りられるような気がして、ついつい登ってしまった。段々暗くなっていく公園で、下りられなくて泣いてたら、「おいで」って。自分と同じくらいの年なのに腕を広げて、「ここにおいで」って。
「ここから飛び込んだらケガしちゃうよ」
自分が突っ込んだら、一緒に転んで確実にその子にケガをさせてしまう。
「だーいじょーぶだよ」
ニコニコして言うんだけど、絶対に大丈夫なわけないってことだけは分かった。
暗くなっていく公園は世界の終わりみたいで、自分とその子だけ取り残されてどうなっちゃうんだろうって、心細くてまた泣きそうになった。
「ねぇ、もう帰っちゃうよね?」
その子にだって門限があって、遅くなったら怒られるだろうから、そこにいてとは言えなくて恐る恐る尋ねると、「うーん?」と間延びした声が返ってくる。
「あの、ね……どっか行っちゃわないで? そこにいて?」
いつ下りられるかも分からないから無理なお願いなのに、その子はあっさりと答える。
「うん? いいよ〜」
気負いのないその声に、勇気をもらった。
「下りるから。そこにいて?」
声は震えていたと思う。
「いいよ〜ゆっくりね。ゆっくりでいいよ」
片方ずつ足を下ろしていく。ぎゅっと鉄のフレームにしがみつきながら足をふらふらさせてると、「もうちょっとで届くよ〜」と教えてくれる。ゆっくりと片足ずつ下ろしては息を吐く。
「もう少しだよ」
声に励まされてとうとう足が地面についた。
「がんばったねぇ」
間延びした、でもしみじみとした声に涙があふれる。そのままの勢いでしがみついたら、「よかったねぇ」と背中を撫でてくれた。
その後のことはひどく曖昧だ。家までその子と歩いたのか、公園で別れたのか。無事に下りることができたことが嬉しすぎて他の記憶が霞んでいる。「ありがとう」ってきちんと伝えることができたのか。
今もし会えるなら今の自分であの子にお礼がしたい。
9/24/2024, 8:36:02 AM