遠い空
私の故郷は雨ばかりだった。
いつ空を見上げても雨ばかり、
老人ばかりの小さな島。
私は島を出た。晴れが好きだった。
暖かくて、やさしくて、
だがあんな雲に覆われた島では、
見る事なんてないだろう。
あんな島に未練などない。
島から出て少しすると、
雲が薄くなって来た。
慣れない揺れに顔を歪ませる。
船酔いをしたようだ。
手すりを握りしめ、顔は自然と下を向いた。
一通り吐き、結んでいた目を緩める。
そこには空があった。
遠い空を、海越しに見た。
本当に未練は無かった。
逃げたのだ、あの場所から。
出発の前、皆がかけてくれた言葉。それは憎しみなど感じない、やさしく暖かな言葉だった。
本当に薄情だと思う。
涙ももう出なかった。
遠い島の遠い空では今も雨が続いている。
4/12/2023, 3:18:03 PM