佐倉

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 横光利一の「春は馬車に乗って」という小説をご存知だろうか。
 存じない方がいたら、是非とも読んでいただきたい。青空文庫で読むことができる。

 病気で余命間もない妻とその夫の、療養中のことを小説にしたもので、作家本人の体験がもとになっている。
 史実ではこの妻と一緒になるまでに妻の家族からの反対や、一緒になってからも自分の母と仲が険悪になり、苦労しっぱなしのところへ妻の病気が発覚する。
 妻、と表記しているが、彼女の家族の許可を得て籍を入れられたのは彼女の死後のことである。

 看病する側の言い分、病人の苦しみと本音。
 この小説ははじまりから終わりまで無力感と諦念がもたらす美に満ちている。
 その美が流れ星のように儚く消え果てる最後のときがこの物語の終幕となる。

 このお話を読み終えたとき、あなたはきっとスイートピーの花束が忘れられなくなるだろう。

2/9/2024, 10:17:36 AM