狼星

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テーマ:雪 #56

「あたし、雪子(ゆきこ)。あたしと遊んで〜」
雪の降る寒い中、一人の女の子が私の家に尋ねてきた。
「えーっと…。家、まちがえてるんじゃな〜い?」
私はその子…雪子ちゃんの視線に合わせてしゃがみ、話しかける。
「まちがえてないよ? あたしは遊びたいの!」
雪子ちゃんは手袋のしていない白い手を私に差し出す。
「私と?」
「うん!」
元気良く頷く雪子ちゃん。私は困った。遊ぶと言ってもこんな小さい子相手にどう遊べばいいのだろう、と。
「雪子ちゃん…悪いけど…。私は一緒に遊べないと思う」
「なんで?」
「私はもう大人だし…」
そう、もうすぐアラサーで独身な私には子供と遊ぶような機会はないし、すぐに疲れてしまうだろう。いや、そうに違いない。
「あなた、大人みたいなこと言うのね」
「だって、私は大人だもの」
「何を言ってるの? あなたはまだ子供よ?」
そう言って、首を横に振る雪子ちゃん。
「何を言ってるの? ……まぁ、いいや。私やることあるから他を当たってーー」
そう言いかけてしゃがんだ足を戻したが視点が変わらない。
「ん?」
私はもう一度しゃがもうとする。
「ん? ん!??」
今度は雪子ちゃんよりも視点が下がる。
「ほらね? いったでしょう? あなたは『子供』だって」
雪子ちゃんが自信満々に胸を張って言った。
手を見ると小さい手が目に映る。足だって小さい。
何よりも、ドアノブが遠い。
「嘘でしょ…。どうなってるの…?」
私は疲れているのかも知れない。こんなの夢だ。夢に決まってる。
「どうする? あたしと遊ぶ?」
私は雪子ちゃんに同じ質問をされる。この子、一体何者なんだろう……そんな思考よりも夢なら夢で楽しんだほうがいいのかもしれない。せっかく若返ったのだから。という思考が勝っていた。
「遊ぶ」
「そうこなくっちゃっ!」
雪子ちゃんは私の手をひいた。

私たちは遊んだ。
雪合戦、雪だるま作り、雪兎づくり……。
そんなことをしていると時間なんて忘れていた。
無邪気な子供のような心を思い出したかのようで楽しかった。
しかし雪が溶けて水になるように、現実に覚めてしまうと、楽しかったなぁ…とおもうのだった。
正直、雪子ちゃんの正体は今でもわからない。でも、ただ楽しかった。例えあれが夢だったとしても。
私と雪子ちゃんが過ごした時間は氷のように溶けないのだから。

1/7/2023, 1:28:34 PM