絢辻 夕陽

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「やりたい事かぁ、やっぱり日々是好日に過ごせればそれだけで十分かな?」

そう言って彼女はにこりと微笑みまるで悪戯っ子の様だった。

彼女と出会ったのは今から三年前の事だ。
たまたま行き付けの喫茶店で珈琲を一人でじっくりと堪能していたところ、相席しても良いかと聞かれ承諾した事がきっかけである。

「シンプルイズベスト!かな。なんか無駄に過ごしたくないっていうか、一日一日を大切に過ごしたいんだよね。」

私はそっと手元にあった珈琲に口を付け、無言で彼女の話をただただ耳を傾けていた。

彼女はとにかく前向きで明るい。
まるで太陽の様な子だ。

「じゃあ、今貴方のやりたい事って何かある?」
そう聞くと興味津々にこちらに顔を向けた。
珈琲をじっくりと堪能していたのに。

「ん、そうだね。まぁなんだ。君と同じくのんびり生きていければそれでいいよ。」

実際そう答えるしかなかった。

私は今までの人生でのんびり出来た試しがなかったからである。

「なぁんだ、私とおんなじかぁ。」
彼女はそう言って何処か不満気な表情でそっぽを向いた。

本心では彼女と一緒にいてとても楽しく感じている。
本当はこれからもずっと一緒にいたい。
だけど、そうなる事はほぼ不可能である。
と言うのももう直ぐ別れを告げなければならないからだ。

転勤。

こればかりはどうしようも出来ない。
それをいつどのタイミングで切り出すかは今の私には判断が出来ない。

「それでさ、これからどうするの?」
「そうだね、『旅』とかしてみたいかな。色んなところを巡ってね。」

「ふーん。」
興味がなさそうである。

「ところでさ」いざ話を切り出そうとすると彼女は私の言葉を遮りいきなりこう呟いた。

「いつになったらはっきり言ってくれるの?」

「えっ?」

まさか転勤の件がバレている?
いやまさかそんなはずはないだろう。

「私と一緒にいたいっていつ言ってくれるの?」

「えっ?」

私はその言葉に耳を疑った。

彼女はどうやら察していたらしい。
このままでは私が側からいなくなってしまう事を。

「君は本当に一緒にいてくれるのかい?」
「だってこれまでずっと一緒にいたんだもの。貴方とならどこにでも行きたいよ。」

そう言って彼女は頼んでいた珈琲のカップにそっと手をつけ口元へ運んだ。

「コーヒーブレイク」

6/10/2024, 12:00:41 PM