柳絮

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きらめき


推しってLED搭載してんの? 眩しすぎない?
舞台の上で歌って踊る推しは、現実にはLEDに照らし出されて、舞い散る汗がキラキラと。いや実際は見えないけど。そんな近くないけど。心の瞳で見えるわ。
今、笑顔でここに立っているけど、これまでいろんなことがあった。苦節の下積み時代。怪我で療養。ファンの炎上事件。まあ全部インタビュー記事とかSNSで見たんだけど。
とにかく、過去も全部ひっくるめて、推しは輝いている。




些細なことでも


眠れない夜のココアにマシュマロが浮かぶ。
枕が毎晩ふかふかになっている。
テストの日の朝ごはんに好物が並ぶ。
暑い昼間にレモンソーダが冷やされている。
午睡から目覚めるとブランケットがかかっている。
頭痛に顔を顰めているとチョコレートがそっと置かれる。
虹を見つけたと写真が送られてくる。
そういう毎日の積み重ねすべてが、愛されている実感になる。大切だと、心配していると、応援していると言葉より雄弁に伝えてくる。




心の灯火


真っ暗だった。
疲れた。何も考えたくなかった。自分が嫌いだった。誰にも愛されない自分に価値はなかった。どうしようもない失敗作。褒めてくれる人は同情で、笑いかけてくる人は計算で、好きだと言われても疑問しかない。
だけど。
「ウォン!」
だけどこの子は真っ直ぐにこちらを見て、パタパタ正直な尻尾を振っていた。擦り寄って、舐めて、お腹を見せて甘えてくる。愛していると全身で伝えてくる。
生きなきゃ、と初めて思った。




開けないLINE


やってしまった。勢いで送ってしまった。
読み返そうにも、開いてるときに返信が着たら、即既読をつけることになる。心の準備もなく返信を見るのも怖い。
やっぱり素早く開いて送信取消すべきだろうか?
今ならまだ見てないかも。取り返せるかも。
でももう見てたら? それに言いたかったのは事実だし、勢いがなかったらいつまでも進展なんてないし。
「夏祭り一緒に行かない?」なんて。
ぴんぽん。
音と振動にスマホを取り落とす。
返信。




不完全な僕


僕には大切なものが欠けている。
生きていくのに必要なもの。
自由に生きるためにあるべきもの。
腕を失くして義手にし、足を失くして義足にし、体が壊れては継ぎ接ぎして、それでも義務に縛られた。あの女は僕を愛してると言うけれど、僕はそれには応えなかった。
そして最後は呪われた。
僕には心がない。痛む胸がない。ハートがないから人を愛せない。
あの女は僕の身体を奪っただけではなく、彼女を想う心まで壊してしまったのだ。

9/4/2023, 2:19:00 PM