【麦わら帽子】
麦わら帽子一つ分空けて、座る。それが今の二人の距離。
「終点まで行く? どうする?」
「ここまで来といて今更。どうするって、行くしかないじゃない。いつも、いちいち聞かないでって言ってるよね」
そう言って、雨の降り出した、窓の外を見る。その横顔に、「ごめん」と謝ると、唇が動いて「来なきゃよかった」って呟きが、聞こえた気がした。
「ごめん」
もう一度言って俯く。笑ってて欲しいんだ。だって初めて会ったとき、
――いいよ、大丈夫。上手くいかなくたっていいよ。
やさしい声で言って、綿アメのように、ふわふわあまい声で笑ってくれたんだ。
「終点まで行ってみよう」って誘ったクセに。
いちいち聞かなくてもいいって言ってるのに。
だって、いつもこっそり、でも嬉しそうに誘ってくるからさ、それって絶対に楽しいヤツじゃない? 終点に何があったって、なんにもなくたって、どうでもいいんだよ? 一緒に行くって、それだけでいいのに。どうして分かってくれないんだろ。
8/12/2023, 9:54:36 AM