塵芥 椎歌

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【ススキ】



「ねぇ、ススキにもね花言葉があるの知ってる?」



ベッドの横で無邪気に笑いながら
問い掛ける貴方。


「知らないよ。」


煙草の紫煙と
コーヒーカップからの湯気が
二人を思考させる材料には充分であった。


「そっか、人生損してるよ?」


顔を覗き込んで揶揄う貴方。


「あれ、あれは知ってる。実るほど頭を垂れる稲穂かな。ってやつ。」

「あはは。ススキと稲穂は違うんだよ。」


笑う貴方。


二人の時間はその「ススキ」と言う物の
話題だけで充分に笑い合えた。




今更、分かる、自分の、愚かさ、無知さ。



「ススキの花言葉、知ってるよ。「活力」「生命力」「精力」「なびく心」「憂い」「心が通じる」「悔いのない青春」「隠退(いんたい)」なんだってね」


私が発した小部屋の独り言だった。



―貴方は何を私に汲み取って欲しかったんだろう―



自分の事か
私の事か
誰かの事か
二人の事か。


二人の「ススキ」の様な日々は
とうに、とうに、
二人で月を見た日に消えたのに。

何で思い出すんだろう。


今更。


―無知とは唯一の善は知識であり、唯一の悪は無知である―



「実るほど頭を垂れる稲穂かな……」と、
ポツリと吐き捨て

笑った。

実るほど謙虚にならなきゃいけなかった。
実ったから私は傲慢に「もっと」を強いた。

沢山実ってしまったから、だから、
頭を垂れるよりも早く、折れてしまった。


(あはは。ススキと稲穂は違うんだよ?)


月を見た。

あの日の事は月の神様が下した
当たり前の裁定だったんだろう。


「見分けも付かなかった私を赦してよ」


そう、笑って、泣いた。

コーヒーカップは割れていた。
月が欠けるように。

星が沢山散りばめられてるように
破片が落ちていた。




――塵芥――


11/10/2023, 9:15:30 PM