考える。考える。考える。
「これを、貴方に、と」
差し出した一通の手紙を白魚のような指が宝物を扱うような手つきで受け取った。
「これ……」
差出人の名前を見た彼女は困惑の眼差しでこちらを見ている。
「私は死者専門の郵便配達員です。」
この世界の人間は、死ぬ前に一通だけ手紙を残すことが出来る。親へ、子供へ、恋人へ。誰に書くかは様々で、その最期に残す手紙を受取人の元へ確りと届けるのが、私の役目だった。
手紙を読み始めた彼女は、はらはらと涙を流して何度も何度も涙を拭っていた。
私は、その手紙に何が書かれていたのか推し量れない。差出人と彼女の関係性すら、予想がつかない。しかし、最期に手紙を書く位、彼女を大切に思っていたことは、誰の目から見ても明らかだ。
「無事に届けられましたので、私はこれで」
一礼。ありがとう、と小さな涙交じりの声を背に私は帰路についた。
私は少しだけ羨ましくなった。彼女に送られた手紙は彼女のためだけに差出人が書いた唯一無二のものだ。
考える。自分が手紙を書くとしたら。
誰へ、どんな言葉を紡ぐか。
私は、考える。
1/31/2024, 2:34:57 AM