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 お祭りにいった記憶はここ数年ない。本当に小さい頃に親に連れられ、赤い可愛らしい浴衣なんかを着て人混みの中を妹と手を繋ぎながら歩いた記憶が最後のものだと思われる。
 出店の食べ物は普段よりも数倍は美味しいとはいうもので、親にねだって買ってもらった焼きそばや綿あめは普段家で食べるものよりも格段に美味しかったように思う。手がベタベタになって最後には手を洗う場所ばかり探していたような記憶もある。
 1番の思い出は金魚すくいだ。赤や黒の金魚たちが青い入れ物の中でヒラヒラと泳いでいる。小さなポイを握りしめて私と妹は一回だけ金魚掬いをやらせてもらう。金魚をポイに乗せた途端に破けて金魚は逃げてしまう。2人とも失敗したところで、出店のおじさんに1匹ずつ残念賞として金魚をもらった。小さな赤い金魚をビニールに入れて家に帰る。大きな水槽に入れられた2匹の金魚は私が高校を卒業するまでは生きていたように思う。
今夜はお祭りがある。わざわざ遊びに出ては行かないが、微かに聞こえてくる出囃子や子供たちの笑い声を聞くと遠い遠い昔を思い出す。むせるような夏と人混み、妹の手の熱さ、懐かしく幸せな思い出の一つである。

7/29/2022, 9:19:32 AM