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 「俺、美咲に昨日告られたんだけど」
予備校帰り、反対方向の美咲の背中が曲がり道に吸い込まれると、彼は言った。さっきまで三人で話していたときの、二人の妙な気まずさに、何かあるのではと思ってはいた。
 「そうなんだ。付き合うの?」
少し不機嫌なような、突き放すような物言いになってしまったかもしれない。
 「考えとく、って言った。でも明日にでもオーケー出すつもり」
 僕ら三人は、同じ高校で、同じクラスで同じ塾で、そして同じ最寄駅だった。やけに顔を合わせる二人と一人、よくつるむようになるのは自然の摂理だった。美咲は男の中にいても物怖じしない、そんな明るさの中に、時々美咲も女の子なんだ、と感じる瞬間があって、そんな美咲に彼が惹かれているのは分かっていた。
 「どうして、すぐに返事しないのさ」
 「だって、高校卒業したら、違う大学になるだろ。今よりも会えなくなる中でやっていけるかな、とか思うよ」
いいややっていけるさ、その言葉は胸のなかに飲み込んだ。自分がひどく惨めになるような気がして。
 ずっと、彼が美咲を見る目に嫉妬していた。美咲が入ってくるまで、僕は平穏だった。一人で本を読んでいる僕に話しかけてくれた瞬間から、僕にとって、彼の隣を独り占めできる日々は、何物にも変えられなかい生活だった。僕の方を向いて笑うその顔に、何度も心がはねた。
 「そうか。上手くいくといいな」
 「ありがとう。頑張ってみるよ」 
 どうせ分かっていた。彼に僕と同じ気持ちは返せないということ。僕の方を向いて、彼は笑った。僕の言葉が心からの祝福だと信じているかのように。以前のように心ははねず、その笑顔は僕に刺さる。でも、覚えておきたいと思う。僕と彼も、学校が分かれる。会えなくなる中で、きっと今まで通りにはいかないのは僕らの方だ。
 何だかなみだが出そうで鼻をすする。これは、寒いからだ。友達の恋が実ったことを自分のことのように嬉しいと思っているからだ。僕の恋が終わったことが悲しい、なんてひとつも思ってなどいない。

12/12/2023, 1:37:50 AM