霜月

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「お気に入り」

子供の頃、お気に入りの絵本があった。
母が買ってくれた絵本だ。
水彩絵の具で描かれた美しい海、白い帽子とワンピースを着た女の子。
絵本を開くたび私はガラス細工のような繊細さをもつその世界観に目を輝かせた。

月日は経ち、私は少女から大人になった。
あの絵本は今どこにあるのかわからない。
ストーリーも絵も朧気な記憶の中でしかもう存在していない。
ただ、あの頃絵本を開くたび感じた感情の欠片だけが今も心の奥で眠っている。

2/18/2024, 9:04:48 AM