たそがれ
トイレに行ったあと、階段の踊り場で立ち止まった。窓から夕日が見える。
な~に黄昏てるの。 振り向くと先輩が立っていた。
別に黄昏れてませんよ。ただ、夕日を見てただけ。
ふうん。はい、どうぞ。
どうも。 コーヒーを受け取った。一口つけたあと、また外を眺めた。
夕日がそんなに珍しいの?
まさか。ただ、夕日って、あんな感じだったなと思っただけ。久しぶりに見た気がする。
へえ。 そう言って、先輩も同じように外を眺めた。
確かに、わたしも夕日なんてじっくり見たの、久しぶりかも。
沈んでいく夕日をふたりとも無言で見ていた。沈む速さが、速いのかゆっくりなのか、よくわからない。踊り場はそんな雰囲気だった。
おっと、戻らなきゃ。残業、残業。あなたもそろそろ戻ったら?
そうですね。あっ。
夕日から視線を横にやった。先輩の流れる髪を夕日が金色に染めている。
ん?なに?どしたの?
あっ、いや、肩にゴミがついてると思ったんですけど、違ったみたいです。
そう。じゃあわたし行くね。 彼女は席に戻っていった。
金色に輝く姿が美しいと思った。心から。でもそれをどう言っていいのか、そもそも僕なんかが口にするべきことなのか、迷ってしまった。
また外を眺めた。
やれやれ。今度は本当に黄昏そうだな。
10/1/2024, 12:16:01 PM