狼星

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テーマ:花束 #89

花束ってもらって嬉しいの?

男からしたらわからない。
花って枯れるし。
貰ったときだけきれいなだけで、その後どうなるのか正直知らない。
でも、花束を家に飾っている人を見たことがない。
きっとすぐ枯れてしまうんだろうな。
なんて思って横目で見ていると、花屋から出てきた男性に声をかけられた。
「こんにちは。なにかお探しですか?」
どうやら男性は店員さんらしい。
「あ、いえ…なんでもないです」
僕がそう言って立ち去ろうとすると
「花束って綺麗。でも、もらって嬉しい…?」
僕は思わず振り返った。それは店員さんが言った言葉だった。
「え…?」
エスパーなんだろうか。心を読む能力…?
「そんな顔をしていたので…」
ヘラっと笑う店員さん。
「そうですよね、わかります。僕もわからないことですし」
「花を売っているのに…ですか?」
僕の言葉に頷く。そのまま彼は視線を花に向ける。
「僕はどちらかというと送る側ですからね」
店員さんはまたヘラっと笑う。
「でも…」
そんな店員さんの顔が急に引き締まる。
「花屋をやって思ったんです。花束がどうなるか、じゃなくて。送る相手がその人に対して花束あげたいから送るんだって。
いろんなものがある中で、花束をプレゼントする。それはその人には花束あげたいって思ってあげている。その気持ちを相手が受け取る。それが大事なんだって」
店員さんの花を見る目は優しかった。
「まぁ、最終的にいえば、気持ちが伝われば何をあげてもいいってなるんですけどね」
そう言って顔を上げ、僕を見る。
「花束を買ってくださるお客様のその気持ちを、僕は花束で表現する。そしてお客様の気持ちにあった花束を買っていただく。僕の仕事は花とお客様の気持ちを繋ぐサポート、といったところでしょうか」
店員さんの言葉はどこまでも丁寧で、聞いていて不思議な感覚になった。
「そう思うと花束は、もらって嬉しいのではないでしょうか。あとのことより貰ったときのことが大事なんじゃないかなって僕は思いますよ」
店員さんが微笑んだ。貰ったときのことが大事…か。
「今はドライフラワーっていうのもありますし」
「どらいふらわー?」
「花から乾燥させることによって、長く保存できるようにするんです。あぁ、今はハーバリウムっていうのも流行っていますね」
店員さんの言葉に混乱していると
「あぁ、すみません。熱心に話してしまいました」
そう言って謝られる。
「あ、お詫びと言ってはなんですが…。少し待っていてください」
そう言って店内に入っていったかと思うとすぐに戻ってくる。
「これ、どうぞ」
手渡されたのは、小さな花束だった。小さい白い花がピンクの花を際立たせている。
「カーネーションとカスミソウという花を組み合わせています」
「いいんですか…?」
「はい! あ、いらなかったらすみません」
「いえ…。嬉しいです」
僕の口から自然に出ていたその言葉。店員さんは微笑んだ。

僕は店から離れると考えた。
僕が持っていてもいいけど両親にあげてもいいな、と。
僕は店員さんの言葉を思い出す。
ーー貰ったときのことが大事
花のいい香りが僕の鼻をくすぐる。


※ピンクのカーネーション、カスミソウの花言葉:感謝  
 店員さんは花言葉まで考えたのでしょうか?
 両親にあげることまで考えてあげていたのなら、店員
 さんは未来が見えるのでしょうか…?

2/9/2023, 1:02:37 PM