無色の世界
先立った妻と半生を共にしたこの家も老朽化が進んでいた
住み慣れた我が家を離れるのは名残惜しいが、息子の手筈で近くのグループホームに移り住むことになった
引っ越しの準備で息子が部屋を整理していると、奥から一冊の古いアルバムが出てきた
開いてみると中には何枚かの白黒写真が綴じられていた
撮ったことを今の今まですっかり忘れていたが、妻と写る写真を見て昨日のことのように記憶が蘇った
それこそ確か家に眠っていたフィルムカメラで試し撮りした時のものだと思う
今ではもう無くなってしまった公園で妻と2人で出掛けた時のものだった
何の変哲も他愛も無い日常を切り取った写真
それでも無色の世界で微笑む妻は心の中で色鮮やかに映し出されていた
4/18/2024, 2:52:13 PM