ちか@修行中

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最初から決まってた

魔王軍に入ってから長い歳月が流れた。
もうすぐこちらに勇者たちが来るという知らせが入った。この伝令も初めは人間である俺に不信感と蔑みを抱いていたようだが、今はそれが無い。この魔王城ではきっと、もう誰も。

神託を受けて俺たちは故郷を出て、下級の魔物を倒しつつ日銭を稼ぎ旅をしていた。
力自慢だが不器用な性格の少年と、心優しいが芯のある少女。そこに器用貧乏な年長の俺がいた。
戦闘はヒヤリとする場面もあったけれど、平穏な日々だったのだ。
上級の魔物が襲いかかってくるまでは。

圧倒的だなんて言葉では足りない力の差がそこにあった。魔王を倒す勇者だと神託を受けた少年でさえ、全く歯が立たなかった。
俺は、命乞いをした。みっともなく魔物に縋りつき、どうか俺だけでも助けてほしいと喚いた。
魔物は面白がって、少年の首から剣を引いた。
そのまま魔物は俺だけを連れて奴の根城に向かった。

魔物にとって人間はいくらでも換えのきく物だ。それを覆すため、認められるなら何だってやった。飼われている他の人間の処分をしたり、片腕を魔物の餌にしたり、身体に魔物を住まわせたり
幼馴染の少女すら、手にかけた。

面白がった上級の魔物は、魔王に俺を献上した。
魔王は軍議に俺を連れて行っては、どのようにしたら人間をたくさん殺せるのか、どうしたら人間を殺さずいたぶれるのか、戦意を失わせるには何がいいのか、色々な質問を投げかけてきた。
それに答えるたびに、軍議の結果を高らかに俺に話すたびに、来るべき日を待ち侘びて耐えた。
ーー魔王の弱点を掴むために

そして今日が、ようやくやって来た。憎悪と復讐に染まった少年がーーいやもう青年かーーやって来るのを
命乞いをしたあの時から決まってたのだ。
幼馴染に討伐されるこの運命は

(あるいは村を旅立ったあの時から)

8/7/2024, 11:57:44 AM