「明日、もし晴れたら…」
「おい」
「なにさ?」
「明日晴れたら、なんて本気で言ってんのか?」
「なにかおかしい?」
「おかしいな。お前、この空を見ろ。ここじゃあ晴れも雨もないんだ、永遠にな。それどころか、昼も夜も曖昧なんだぜ」
「はは。僕から言わせてもらえば、おかしいのは君だね」
「なんだと?」
「君は、どうやって晴れや雨や昼や夜を判断しているんだい?」
「そりゃあ…空に雲がなかったら晴れで、水が降ってきたら雨だろ。そんで、明るかったら昼で、暗かったら夜で…」
「そんな視覚情報で決めつけるなんてナンセンスさ。天気や昼夜なんてのはね、自分で決めるものなんだよ」
「はぁ?それじゃあ、お前は自分で勝手に晴れや雨や、昼や夜を決めてるってのか?」
「そうだよ?僕が晴れがいいなって思ったら、その日は晴れさ。雨がいいなって思ったら、何も降ってなくても雨。眠りたいなと思ったら夜で、出かけたいなと思ったら昼さ。もちろん、起きていたい夜や眠りたい昼もあるから、一概にそうとは言えないけどね」
「はあ…じゃあ、お前にとって今の天気は?」
「今日はピラニアが降るよ」
「ふーん…あ!?ピラニア!?」
「そう。だから外には出たくなくてね。こうして君をうちに呼んでいるのもそれが理由さ」
「待て待て、それならお前は俺という大事な友人をピラニアの雨に晒そうとしたってのか?」
「君は頭が固いね。僕にとっての天気と、君にとっての天気は違うじゃないか」
「…そうなのか?」
「そうだよ。だって君は、今日ピラニアの雨が降っていなかったから、ここまで来てくれたんだろう?」
「…確かに。俺にとっては何も降っちゃいなかった」
「でしょ?きっと君の天気は晴れだったんだよ」
「…いや。曇りだ。俺は、今日は曇りがいい」
「そっか。じゃあ明日、もし晴れたら森へ鳥を見に行こうよ。ピラニアが止んでいたらね」
「あぁ。ピラニアが止んで、俺の天気も晴れだったらな」
【お題:明日、もし晴れたら】
8/1/2024, 2:15:05 PM