定規

Open App

独り暮らしの夜10時。
陰気臭いマンションの9階で、今日も一夜が過ぎる。
“またつまらない一日を過ごしてしまったな”
安い缶の酒を含みながら酔いに身を任せ、鬱々とした泥濘に嵌まる。
“もし俺が、平凡だと思ったらチートキャラだったとしたら”
と、どこぞの小説家を誘うたぐいのライトノベルのような題材に思考を沈ませる。
“もし自分が平凡ではなかったことに気づいた時、俺はきっと日常からおさらばできる。
素晴らしい非日常へと歩み出し、自分の欠点や汚泥のような嫉妬や憎悪などの感情は無に帰すのだ。”

変わった日常が欲しかった。
日本刀に始まり、魔法・呪術・推理・スポーツ・歌。
二次創作に走り、世界観に没頭してみたり、好きなキャラクターを模したイマジナリーフレンドを作ってみたりした。
そしてこの世の中で言う、「正気」に戻るのだ。
すると何一つ変わらない自らの醜い現状に絶望するのである。あぁ平和。
そうさ、平和だ。
ならばその平和の均衡を崩してみようじゃあないか。


非日常の始まりだ!さぁ、道を開けろ!


唐突にワクワクとした高揚感が自身の体を突き動かす。
ベランダに通じる窓を開け、夏の生ぬるい風がまるで誘うように頬を撫でて行く。

彼はベランダから身を乗り出し、
恍惚とした表情で引力に従い落ちて、
硬くて身の詰まった西瓜を砕いたような音を立てて逝った。


それを雲の上から見ていた僕(神)はこう嗤って呟くんだ。
「バッカみたい」








__まぁ、それが面白いのだけれど。

3/22/2023, 1:07:37 PM