狼星

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テーマ:ずっと隣で #121

ずっと隣で笑ってくれるといった君は、僕から遠いとこにいる。
君は今、元気なの? どこにいるの?
僕は彼女に問いかける。
もちろん返事は返ってこない。

君を探してもう10年が経つ。
君をさらった天災から、もう10年という月日が経つんだよ。信じられない。信じたくない。
君がいないこの世界で10年という月日をどうやって生きてきたのか、よく覚えていない。
君の笑顔を、今でも昨日のように覚えているんだ。
君の笑い声が、今でも聞こえるような気がするし。
君の温かい手が、僕の冷たい手を温めてくれている。

ありえないはず。
それが、今でも君の存在があるかのようで……。
僕はまた、この地に足を運ぶ。
彼女を探すためだ。
「血縁関係のない娘を探さなくていい」
親は言った。
「他の子と幸せになって」
彼女の親御さんも言った。それでも僕は探し続けた。
なにかに取り憑かれるかのように。
彼女にだったら取り憑かれてもいい。
それくらい僕は彼女のことを思っていた。
素直に好きといえばよかった。
喧嘩なんてすぐに謝ればよかった。
「生きていてくれてありがとう」っていえばよかった。
僕の後悔はこの地に来るたび連なっていく。
それでも僕はこの地に来ることをやめることはできなかった。


そんな僕に一報の手紙が来た。
彼女の親御さんからだった。それは、彼女がみつかったという知らせだった。
僕はその知らせをもらったとき、僕はすぐに理解ができなかった。その手紙に涙が落ちて、やっと僕が泣いていること、どこかホッとした気持ちが僕の中にあった。
僕は彼女の親御さんが住む家へと向かった。
彼女の親御さんは僕を見るとすぐに家に入れてくれた。
親御さんが見せてくれたのは、タオルに包まれた一つの土まみれになった骨だった。腕の骨だそうだ。
僕はその骨にタオル越しに触れた。
その途端胸の奥が苦しくなった。
僕が彼女とあの日一緒にいたら、助けられたかもしれない。
僕が彼女とあの日一緒にいたら、今も一緒にいられたかもしれない。
そんな後悔と
見つかってよかった。おかえり。
そんな嬉しさが混じっていた。
「ありがとう、ありがとう」
帰ろうとしたとき、彼女の親御さんは何度も僕にそういった。見つけたのは僕じゃないのに。
僕はもう、あの地に足を踏み入れることはないだろう。
あの地は復興のために土地整備が始まっていた。
彼女と過ごした思い出の場所も天災によって無くなってしまった。そして土地整備の範囲にも入っていた。
彼女との思い出の場所がなくなってしまう感じがしたが、もっと辛いと思っているのは娘を亡くした彼女の親御さんやこの天災で家族や親戚を亡くした方だろう。
あのときの傷は今でも癒えることはない。
それは今も、これからも…。
でも誰も恨むことができない。予知出来ないことだから、同じようなことが起きたときどうしなければならないか、次世代の子どもたちに教えなければいけないと僕は思う。

彼女は遠い場所に行ってしまった。
でも心の中で彼女は生き続ける。僕のずっと隣で。

3/13/2023, 11:23:09 AM