お題 キャンドル
聖夜の教会での礼拝。明かりを消してから始まるキャンドルサービス。揺らめく炎に照らされて浮かび上がる祭壇。厳かな空間。
私はそんな聖夜を迎えるのが好きだ。クリスマスデートなるモノなんて、いかがわしくて吐き気がする。
キリストの生誕を祝うのが、本来のあるべき姿だ。どんちゃん騒ぎや、ホテルに一泊なんてトンデモナイ。
なのにこの男はなにが目的か?
「君に見せたい物があるんだ。だからイブに一緒に付いて来てほしい」
「なに?礼拝に行くんだけど?」
「礼拝の後で……ね。どうしても付いて来てほしい」
礼拝の後で……に、何を企んでいるのか。つまらない内容なら即刻帰ってやる。
根負けした私は、仕方なく彼のお願いに付き合う事になった。
厳かな祈りの時を終えると、彼が教会へ車で迎えに来ていた。仕方なく助手席に座る。彼は運転席に乗り車を出した。
「いったいどこへ向かうの?」
「僕の実家になるかな」
と言うと、彼はそれ以上なにも言わない。私は疑りの眼を向けてから、暗がりの景色を睨みつけた。
「着いたよ」
そこは海沿いの崖っぷちだった。そこには、こじんまりとした教会が建っている。
「僕はこの海沿いの小さな教会で育ったんだ。中に入ってみよう」
扉を開けて中に入ってみると、奥に牧師らしき男性が佇んでいた。彼の話しでは、育ててくれた牧師なんだそうだ。炎が揺らめきながら、厳かな聖堂内を照らす。
ふと正面に、小さなパイプオルガンがあるのに気がついた。彼はオルガンの椅子に座って、賛美歌を弾き始めた。
彼の弾くオルガンの音色に惹きつけられた。こんなにも素晴らしい音を奏でる彼に、疑念を持っていた事を深く反省する。なんて馬鹿な私。こんな疑いの心を炎で焼いてほしい。そんな私の心を揺らめく炎は、そっと照らし出すのだった。
11/19/2023, 1:48:28 PM