木下

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 社会に出るまでは「子どもみたい」と言われることが嫌いだった。馬鹿にされたように感じるからだ。
 子どもの頃は大人になるのに憧れて一人前になることを目標にする。夢を追いかけて。
 でも、夢を追えば追うほど不安になり、本当にこれが正しいのか分からなくなる。そして、人に頼りたくなる。正しい正しくないなんて誰にもわからないのに…。当然、今まで当たり前のように近くにいた家族でさえも大人になれば、子どもの頃のように頼れなくなる。将来が不安で鬱々とする。あぁ、子どもの頃はこんなことなかったのに……。いつの間にか大人への憧れは消え、残っているのは懐古的な考えの私だけ。子どもの頃に戻りたい。戻りたい。
 ある日、久々に実家に帰った。精神的に限界が来て逃げた先がそこである。迷惑をかけたくない気持ちと裏腹に頼りたい気持ちがあった。中に入ると、急に押しかけたにも関わらず、昔と変わらない母の温かい「おかえり」が聞こえてきた。母の声に涙が流れたまま止まらない。そんな私を見て何かを察した母はそっと私を抱きしめた。私は泣きながら抱えていた今までの全てを打ち明けた。
 少し時間が経って、私は笑顔で「ただいま」と言った。子どものように。

10/13/2024, 12:46:05 PM