nomino

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小雨が降り出したこともあり、近くの公園のパーゴラで雨宿りをしていた。雨宿りをするまでの間、冷たい雨に風邪をひきそうになると感じた私に、カイロを差し出してくれたのは優翔だった。

「ねえ、さっきはお話聞いてくれてありがとう。優翔のおかげですこし気持ちが軽くなったよ」
「どういたしまして」

私よりも遥かに背の高い彼が年相応の爽やかな微笑みを見せてくれた。私よりも5つ下に離れている彼の頼もしい笑顔には何度救われたことだろう。
中性的な顔立ちで長い黒髪を靡かせる優翔が「俺、ときどき後ろ姿で判断されて女性に間違えられるんだよね」と困り顔で言っていたのはつい最近のことだっけ。

ついこの間まで中学生だった彼が大学生になるだけでも驚いたのにも関わらず、もうあれから2年経ってることを髪の長さが教えてくれた。優翔は昔から趣味でギターを弾いている。
よくテレビなんかで指が長くないとギタリストにはなれないって言うけど、彼の指を見たら、それは本当かもしれないと思った。

「……失恋した私のことを気にかけてくれたんでしょ?」
「へえ、どうしてそう思ったの?」

「さっき弾いてくれた曲、私が子どもの頃から好きな曲だった。この曲難しいねって話してくれたの覚えてるよ?あと一生懸命に練習してる時ほど弦が切れるって言ってたじゃん。指、怪我してるからさ、かなり頑張ったのかなあって」

「……なんで、そんなに覚えてんだよ」
理由聞いた彼が目を逸らして顔だけでなく耳まで赤くしたのは、冬の寒さのせいではないことを確信していた。

今になって思えば優翔はどんな時でもそばに居てくれた。
嬉しい時にも悲しい時にも「大丈夫だよ」と慰めて、ライブで披露する曲をいくつか先駆けで弾いてくれたよね。ずっと傍で見守ってくれたのに、どうして気付かなかったんだろう。

「あのさ……今度出掛けるか、2人きりで」
沈黙を破ったのは優翔の方からだった。

「あと、もうやめるよ。 隠し通すのは。
ずっと……我慢してたんだからな」



(お題:何気ないふり)

3/31/2023, 12:36:34 PM