柳絮

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裏返し


なんか気配を感じる。
ちらっと後ろを見ると、40代くらいのおばさんがついてきていた。
流石におばさんはストーカーじゃないか。
ほっとして道を曲がる。が、おばさんはついてくる。足を速めると向こうも速める。
なに。怖い。何でついてくるの。
もう走り出そうかと思ったところで、肩に手を置かれた。
「!?」
「ちょっとお姉さん」
振り向くと眉間に皺を寄せたおばさんのドアップが。
「服、裏返しだよ。タグ出てる」
きゃあああああ!





鳥のように


立ち上がって、カップを持って一歩、観葉植物を見て一歩、テーブルの上の本に目を落として一歩、そしてもう一歩踏み出そうとしたところでぴたりと止まる。
「あれ……何しようとしてたんだっけ?」
「にわとりか」
「本を片付けなきゃと思って、パキラに水あげてないなと思って、ついでにコーヒー入れようと思ったんだけど、そもそも何のついでだっけ?」
「知らん」
「んー???」
「とりあえずコーヒー。俺のも」
「まいっか。OK」





さよならを言う前に


これは復讐だ。
「そんなのお前にできるわけねーじゃん」
嗤ってそう言ったこと、あなたは覚えてもいないでしょう。
あの日から私は自分を磨き続けた。美容も、会話も、笑顔も、歌も、踊りも、必要だと思うことは何でもやった。
みんなの見る目が変わるのがわかった。そしてあなたも。
「ずっと前から好きだったんだ!」
「見てこれ。契約書。私アイドルになるの。あなたは馬鹿にしたけど、私は夢を叶えたの」
「え、あ、」
「さよなら」

8/24/2023, 2:42:06 PM