君は今____
2023/02/26 小説日記
汗ばんだ手。震える息。全身に鳥肌が立つ。終わると体全身にネバネバとドロドロの黒いものが駆け巡る。いつも、そうだった。いつも映画を見終えると気持ちが悪くなる。いても立っても入れない気持ちになる。そして、どこかに消えてしまいそうにも。
私は親友とカラオケに行き、そのままイオンへと買い物に行った。見るつもりはなかったが時間があまっていたため映画を見ることになった。
映画。なんて、素晴らしく気持ちの悪いものなんだろう。私は、映画が嫌いだ。好きだけど嫌い。
何を見るかと話していると親友は、
言ってはほしくない言葉を口にした。
『すずめの戸締まり』
始まってから約40秒。手の震えが止まらなかった。全身が身震いを始め手汗が出る。音が鳴り響きビクッとはねる。私は強く強く手を握りしめ叫びたい衝動を抑える。
映画を見ている途中何度も何度もその瞬間があった。逆に普通に見られていた時間のほうが圧倒的に少ないかもしれない。
私は、何度も何度も涙を流しながら手を握りしめ、なんとか映画を見終えた。映画館をそそくさと出ると、全身に黒いわだかまりのようなものが走る。泣き叫びたくなる。
今までで一番やばい。そう自分でもわかった。
なぜ、自分はこんな体質なのだろうか。なぜ素直に大好きな映画を楽しめないのだろうか。私はまた涙を流した。親友に心配されたが、映画に感動しただけだよ、と親友にはぐらかす。
幼い頃からジブリや細田守監督の作品を見るとモヤモヤが残るようになった。でも、その頃はみんな同じ思いをして映画を見ているんだと思っていた。
しかし、小学三年生。信じられないぐらいの気持ち悪さが襲い、私は映画が終わるとすぐそばのトイレへ駆け込み胃にあるもの全てを吐き出した。
『君の名は。』それは、信じられないぐらい気持ちの悪い作品。ということは信じられないぐらいいい作品だということ。こんなに感情を揺さぶられる映画は初めてだった。
トイレから出ると『君の名は。』をみた人たちが笑顔で帰っていく。面白かったね、だとかすごくきれいだったね、だとか。そんな脳天気な感想を言い合っている。
どうして?
どうして普通でいられるの?
なんで気持ち悪くないの?
なんで泣き叫びたくならないの?
その時初めて気がついたんだ。
自分はおかしのだと。
『天気の子』は映画館では見れなかった。私は、新海誠監督の作品や細田守監督の作品が死ぬほど好きだ。DVDもグッツも持っている。それでも、そのDVDは一度も見たことがない。『君の名は。』も買ったけれど見なかった。見れなかったんだ。
エモかったり
幻想的だったり
神秘的だったり
綺麗だったり
感情だったり、
朝方や夕暮れ、
誰もいない町や駅、
廃墟になった遊園地や
自然に包まれた森や海。
そういうものが人一倍好きな自信がある。学年の中でも周りからエモい鑑定というものを頼まれたりすることが多い。
それなのに、そういう映画や映像、音、文字を読むとどうしようもなく吐き気がする。
だから、音と映像が気持ちの悪いほど素晴しい新海誠監督の作品は一度しか見れなかった。そして、映画館で見るのはやめようと決めていた。
なのに、今日、6年ぶりに映画を見てしまった。でも、成長したせいか吐くことはなく、ただただ感情がぐるぐると体を駆け巡っていた。
どうして、こんな体なんだろう。
なんで、感情が揺さぶられてしまうんだろう。
私は、ただ、
映画を楽しみたいだけなのに。
2/26/2023, 1:44:05 PM