柳絮

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踊りませんか?


「うふっふー」
ガチャン、と自販機から吐き出された緑茶のペットボトルを拾う。
「懐かしいですね」
「知ってんだ? 世代じゃないでしょ」
「CMで」
あーこれね、とお茶を掲げる。缶コーヒーで指先を温めていた部下は、思い出すように首を捻った。
「何でしたっけ、なんとかの勲章とか」
「それは違う曲ね」
「え?」
「CMでしょ。2曲が上手いこと繋がってんだよね、あれ」
「え……初めて知りました」
あはは、と笑うと息が白く凍った。





巡り会えたら


運命の人。

恋愛とか結婚とかそういうのは置いといて、人生を変えるきっかけをくれた人。
例えば、小学校の先生。パン屋さんになりたい、だなんて幼い夢をあしらうことなく、真剣に道筋を示してくれた人。
例えば、高校の友人。小麦アレルギーで、パンなんか見るのも嫌で、でも本当は誰よりもパンに憧れていた人。
例えば、働き始めたホテルの料理長。甘えと妥協を易々と見抜き、厳しく指導してくれた人。

貴方もきっと気づく。運命に。




奇跡をもう一度


「君に出会えたことは奇跡だった」

なんでよ。馬鹿じゃないの。そんなクサイ台詞。キャラじゃないし。
走って、走って走って走って走って。
人波を走り抜けて、時々ぶつかって、謝りながらまた走る。息が弾む。喉が干上がる。
足が絡まって転びかける。何とか持ち直すけど、足が止まった。それでも顔だけ上げて周囲を見回す。人、人、人。その中に彼の姿はない。
奇跡だっていうなら、もう一度起きろ。
悪態をついて、また駆け出した。

10/5/2023, 3:04:18 PM