ぼくは戸川 日向。中学三年生。
今日はぼくが好きな冬水 百さんと一緒に帰れることになった。
いつも以上に上機嫌だった。
体育の後で、教室へ戻ろうとした時、勢いあまって廊下で派手にずっこけた。
たくさんの人に見られたし、痛かったし、恥ずかしかったけど、君が笑ってくれたのを見ると、「もうなんでもいいや」ってなっちゃったよね。
下校時刻。君と校門の前で待ち合わせた。
「ごめんね戸川さん、傘使わせてもらって」
「いや、全然いいよ」
その日、百さんは傘を持ってこなかった。いや、持ってきていなかった。
一緒に帰ろうとしたそのとき、急に雨が降り出した。
(これはチャンスだ)
そう思った。
ぼくはちょうど傘を持ってきていたので、きみを傘の中に入れると、濡れないように引き寄せあった肩が、歩くたびに少しだけ触れる事に毎回ドキドキしたんだ。
「戸川さんそっち濡れてない?大丈夫?」
「ぼくはいいんだ、冬水さんは大丈夫?」
「うん。ありがとね」
いろんな話をした。最近こんなことをした、面白い夢を見た、あの先生のこんなところが嫌だ、なんていうどうでもいい話題ばかりだったけど。
それでもぼくは、幸せだった。
その日ぼくは、自分が女の子だと告げた。
きみから何を思われてもいい。気持ち悪がられたっていい。
ただ、女の子のぼくが女の子のきみに好きだと言えたら、それでよかった。
今ではぼくの事を理解してくれて、恋人になってくれたきみを、隣に立ってくれたきみを、
ぼくは、大好きなんだ。そして、愛しているんだ。
「ねぇ、ひなちゃん。だいすき!」
「うん、ぼくも。ももちゃんだいすき。」
_2023.6.19「相合傘」
6/19/2023, 10:44:24 AM