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昔から、探求意欲が人一倍凄まじい自覚があった。

保育園の頃は外でよく遊ぶ快活な子だったと母には言われたものだがその実、実際には鬼ごっこやかくれんぼと同時並行で土や木、庭にある花や草、延いては遊具にまで興味を示し、フラフラと触ったり動かしたり、形を見たり詳しく調べることが好きだった。

小学校に上がると、学童や図書室の存在を知り、そこで初めて図鑑という物に手を触れた。
そこには今まで見たよりも多くの知らなかった情報が事細かく載っていて、自分にとっては宝石箱のように思えた。
誕生日が訪れれば、毎年違う種類の図鑑やらなんやらを強請った。

中学に上がっても、意欲は収まることを知らずにどんどん膨らんでいった。けれど、その気持ちは勉強にもしっかりと向いてくれたおかげで最低限、受験の際困ることはあまり無かった。

友達関係も、人と付き合っていくことは人間観察にもなるし、ある種の探求意欲を埋める素材になるため程々にこなしていた。
上々に、それなりに、自分の欲求を満たしていきながら大きくなってきた。

成長していけばしていくほどに比例して大きくなる自分の欲望は、いい事ばかりではなかった。
小学校に上がると陰キャだとかそれなりにヘイトを集めることもあったし、中学になると友達には恵まれたが、気になったものにはとことん触れて学びたいと吸い込まれてしまうこの性格をよく思わない人達だっていた。
1度、勉強も図鑑も何もかも投げ捨ててこんな欲求無くしてやろうと思ったこともあったが、そんなこと出来なかった。全部全部、なくすには惜しすぎたし、ゴミ箱に手を伸ばした瞬間、手が震えて全身を恐怖心が包んだ。
もはや自分は、この気持ちとは離れて生きていくことは無理だし、捨てることはできないと思いながら、高校にまで成長した。

高校1年の冬、もうすぐ2年生に上がる頃、初めて恋をした。
その子はいつものように図書室に入り浸っていた時、まるで桜の花びらのようにふらりと現れた。

茶色くふわふわカールがかった髪の毛、バサバサと長くかかるまつ毛が、伏し目がちな目に美しく映えていた。さくらんぼのような小さく閉じた唇は血色がよく、ピンクのセーターは小さなその手を覆い隠していた。

辞書で昔見た言葉が、ふと脳裏によぎる
一瞬で惹かれてしまうこと、『ひとめぼれ』

その子は小さな文庫本を手に取ると、自分の座る椅子よりも少し先のテーブルに腰をかけて、本を読み出した。

2人きりの図書室には、彼女がパラパラと少しずつめくるページの音が響くように聞こえていた。
その丁寧な所作に、より興味を惹かれた。

図鑑を読む手を止めて、その姿に魅入ってしまう。
その日から彼女は毎日、図書室に来ては定位置に座って同じ本を読むルーティンが出来上がっていた。

ヘタレな自分は、声をかけるなんてこと全くもって勇気がないためできなかったが、この穏やかな時間が大好きで、ただここの空間にいられるだけで幸せだった。きっと話すこともないだろうから、この恋は実らぬものだが、それでもこの一瞬の時間が愛おしいものだった。

ある日、いつものように、互いに互いの定位置に座って好きな本を各々読んでいた。
面白いところがあり、ふとそのページに引き込まれていた時、自分の集中を削ぐように、カタリと音が鳴った。

音に引かれるように前を向くとそこには、ずっとずっと想っていたあの子が、目の前に座っていた。
驚いて目を見開くと、ニコリと微笑んで、話しかけてきた。

「いつも、気になってたんです。ここで集中して、本を読んでいる姿に」

びっくりした。だって、いつも見ているのは、自分の方だけだと思っていた。
そしてそれ以上に、この女の子の探求意欲が、こっちに向いていたことがとてつもなく嬉しかった。
「ぼ....僕も、いつも気になってました....」
徐々にしりすぼんでいってしまう声で、自分の正直な気持ちを伝えた。

女の子は、驚くでも、引くでもなく、嬉しそうに「ふふっ」と笑った。
「私たち、おそろいですね。互いに気になってたなんて、なんでもっと早く気づかなかったんだろう」

その柔らかな笑顔がとても可愛くて、桜の花が咲くように見えて、美しいと感じた。
そしてもっと、あなたの笑顔が見たいと思った。
あなたのことを、知りたいと思った。
この気持ちを抑えることが、できなかった。



「あなたのことを、もっと知りたいです」
その言葉が僕の中の、最大級の告白だった。

3/13/2026, 12:33:44 AM