NoName

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 職場の昼休み。
 お弁当を食べ終えた私は、窓際で雑誌を読んでいる彼のことを観察する。
 雑誌は星の特集が組まれた科学雑誌。
(星が好きなのね)
 熱心に読み込んでいる姿に思わず頬が緩んでしまった。
 同じ職場の同僚。先日知り合ったばかりの他人。一緒に動くプロジェクトの中で異彩を放っている人。
 そんな相手に、どうやら私は気があるらしい。
 つい、何気ないふりで彼の一挙一投足を盗み見てしまう。
 あんまりじっと見てると怪しい人物なのでそれとなく。それとなく。
 ページをゆっくりとめくる指先。雑誌に落とし込まれた視線に前髪がかかり落ちている。
 その表情は夢を見ているように優しい。
 ふと、夢から醒めたように彼が目を瞬いた。
 私も職場の時計で確認したら、そろそろお昼の時間は終わりそう。
 私は、名残惜しさを隠して次の仕事の準備に取り掛かる。

 今日、帰りしなにお昼に読んでいた雑誌のことを聞いてみようか。
 私は密かにそう決めると、高鳴る鼓動を知らぬふり、次の仕事、彼と一緒のプロジェクトの打ち合わせに向かっていった。
 

3/30/2023, 1:47:19 PM