狐火

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遠くに賑やかな明かりが見える
ぼんやり考えたあと思い出した
『あぁ、今日はお祭りだったっけ』
別に行こうとは思わない
行きたかったとも思わない
人混みは嫌いだしうるさいのも苦手だ
それに___

『…僕が行っても、邪魔になるだけか』

車椅子に乗っている僕は
どこにいてもきっとみんなの邪魔者だろう
『…はは、』
なんだか笑えてくる
昔…交通事故に遭う前までは
友達と祭りに繰り出してはバカ騒ぎして
きっと楽しかったはずなのに
この足になって
車椅子に乗り出してからは
やる前に諦めてしまうことが多い
白い目で見られたり変に気遣われたり
とてつもなく嫌だったことにも慣れてきた
恐らく僕はこのまま大人になっていく


そう、思っていたのに


『…?なんだ?』
電話がかかってきた
…お前か
『もしもし』
「あ、出た!おい、今暇か?暇だよな?」
『…………はぁ』
「なんだよ!ため息つくなよ!なぁ返事はー?」
『……要件は何』
「今日祭りあんだよ!お前の家から見えんじゃないか?それでさ…」
『嫌』
「早ぇよ…せめて聞けよ…」
『どうせ誘うつもりだったろ』
「…そーだけど」
『嫌、行かない』
「なんでだよー、一緒に行こうぜ!どうせ今家にいるだろ?」
『……いるけど』
「よっしゃ!決まりな!今から行くから!」
『いい、来んな、一人で行け』
「いや!俺は決めたぞ、絶対お前と行く!」

じゃあな、待ってろ、と言って電話は切られた
『……はぁ』
あいつはいつも勝手だ
こっちの意見も聞かずに突っ走る
『変わらないな』
僕が事故に遭う前もずっとそうだった
車椅子に乗り出して周りの態度が変わっても
あいつだけはずっと変わらない
聞いてみたことがある
お前は迷惑じゃないのか、と
面倒じゃないのか、と
あいつは間抜けな面して
本当になんのことか分からないというふうに
「何が?」と言った
……嬉しくて少し泣きそうになったことは
あいつには絶対に言わない

さて、そろそろあいつが来る頃かな
準備でも、始めようか

7/28/2023, 2:39:56 PM