赤、青、黄色、水玉模様にかわいいキャラクター。
色とりどりの傘が道を占領する歩道の脇に立つ小さな商店の軒下で、ぼんやりと彼女が空を見上げていた。
頭にかぶった花柄のタオルはすでにびしょ濡れで、丁寧にみがかれたはずのローファーはドロドロの泥でコーティング。
彼女の手には通学カバン一つ。残念ながら傘の類は見当たらなくて、同じく隣に濡れネズミで立った僕はぺたんこのカバンの中で存在を主張している折りたたみ傘を思った。
「やまないねえ」
ざあざあと降り続く乱暴な雨音の中で、彼女の声は鮮明だ。
「突然降ってきて災難だったな」
ゲリラ豪雨。正しくそう称される天気に2人で空を見上げる。
そして僕は、なんでもないような顔をして彼女を見た。タイミング良く彼女は小さなくしゃみをして、無意識だろう、夏服でむき出しの二の腕を撫でこすった。
「なぁ」
風邪を引かれたら大変だ。さっさと出さなかったことを不愉快に思われるかもしれないけれど、そんなこと気にしていられる状況じゃない。
カバンに手を突っ込んで折りたたみ傘を取り出しながら声をかけたけれど、彼女は空を見上げて佇んだまま。
「なあって」
「わあ!……どうしたの?」
「傘貸してやるから帰れよ」
一歩近付いて肩を掴んだら彼女はびっくりして跳ねた。あまりの反応にうまく喋れたかはわからないけれど、押し付けた折りたたみ傘を手に取ったので良しとする。
大したものは入っていないからカバンを傘代わりにしても問題無いだろう。
そう思って踏み出した身体は、残念ながら歩道に飛び出ることはなかった。
「どうした?」
「借りたからには、今は私のものだよね」
「……まぁ、そうだな」
「じゃあ一緒に帰ろう?方向同じでしょ」
僕が返事をする前に、彼女は僕を追い抜いて歩道に出る。今は彼女のものになった折りたたみ傘をくるりと回して、快晴みたいな笑顔で笑った。
***
「さっきはごめんね」
「ん?」
相変わらずやまない雨の中を、肩を濡らしながら歩く。
背が高くて良かったと思ったのはたぶん今日が初めてだ。
「雨の音と心臓の音がすごくて全然気付けなかったよ」
「………………なんで心臓?」
「え……あ、……っ」
パチリと瞬きしながら見上げてきた彼女の顔が真っ赤に染まって、ぎゅっと自分の通学カバンを握り締めて傘の下から飛び出した。
「ちょ……っ!?」
「送ってくれてありがとう!また明日!」
彼女の家にたどり着いてしまったらしい。手動の門を開けて、早口で別れの挨拶をした彼女は家の中に入ってしまった。
あの赤い顔は、期待してもいいんだろうか。
お題「雨に佇む」
8/28/2023, 7:51:18 AM