台風が過ぎ去って、ひとりきり。研究室の窓から外を覗き、彼女が連れて行かれるところを、ただ見下ろしていた。自分の無力さに失望しつつも、結末は分かっていたような気がする。カーテンを閉め、例の図面を手に取り、また眺めた。
「昨日の停電は偶然のことでした」
入口の方から突然声がした。自分に話しかけているのだと気づいたが、目線は落としたまま特に何の反応もしなかった。そしてこの先の展開を悟った。
「あなたがそれを早い段階で知ったことも」
忌々しい人、お前さえいなければ。私は無反応を決め込んだ。抵抗でもなににもなってないが、答える義理も無い。ただやはり結局はこうなるんだと最初から諦めていたような気がした。それでもなにもしないこともできない自分と、聞いてもいないことを得意げに話し続ける彼に、同じくらい呆れながら、彼女との日々を回想していた。
「それでも分からないことがあります。あなたはなぜそんなことをしたんですか?あなたになんの徳があるのです?」
演技じみてて白々しく聞こえるだけか、本当に分かってないのかある意味断定出来なかった。
「…間違ってるなって思ったから」
顔をあげ目線を合わせると彼はゆっくり2回頷いた。
「ぼくはそうは思いませんよ」
予想外の返答に思わず目を細めた。本当に、一体どこまで分かっているのか。聞いてみたい気もしたが、都合よく受け取ることにした。その言葉に救われた自分がいたから。
9/11/2025, 11:32:35 AM