せん*30分で書けた分だけ

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30分でどこまで書けるかチャレンジ
#ないものねだり

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「マコトが羨ましい」
 それを口に出してしまうと、自分が酷く自分勝手でわがままな人間であるように思えた。実際、そうなのだろう。
「マコトには、家族がいる」
 だけど、仲は良好ではないと言っていた。いつか見た夢の中では、家族の誰にも見つけてもらえないまま、マコトは死んだ。
「マコトには、僕以外の友達がいる」
 だけど、マコトはその誰にも心を開いていないようだった。僕に向けるのとは違う、作り物の笑顔。等しく愛想を振りまいておきながら、誰にもあと一歩を踏み込ませない。
「僕は、」
 これ以上はだめだ。分かっているのに、
「僕には、お前しかいない」
 それだけで十分であるはずなのに、僕は、十分である以上の意味を持たせてしまっている。そしてそれを、マコトにも理解させようとしている。
「お前しかいないんだ」
 期待と、羨望と、嫉妬と、執着と、依存と。他には、何があるだろう。いろんな感情をごちゃまぜにして絡め合わせて、僕はお前を縛りつける。されるがままなお前は、他の奴らに向けるのとは違う、『本当の笑顔』を浮かべる。
「俺も、お前だけだよ」
 あいつらは全部ニセモノだ。マコトの大きな手が頬に触れる。ごちゃまぜたものが、元々は僕の感情だから、僕の心を蝕んでいく。
 僕はどんどん、だめになる。
「うそつき」
 うそつき、うそつき。マコトはうそをついている。マコトにとっては『お前』は僕だけじゃない。僕だけじゃない。
 僕はこれ以上ないくらい尽くされているはずなのに、愛されているはずなのに。思考が止まらない、汚い感情ばかりがどんどん出てくる。許せない、羨ましい、もっと欲しい、あれが欲しい。
 あいつらにあげているあれが欲しい。
「……ユキ」
「やだ」
「何が。なぁ、ユキ、聞いて。俺は嘘なんて言ってないよ」
「やだ、やだ」
「ユキ」
 僕だけがいい。全部、全部、僕だけがいい。
 僕だけにして、僕以外の人は見ないで。僕にもちょうだい、全部ちょうだい。
「ユキ、」
「もういっかい」
 それは、その名前は、僕だけのものだから。
「もういっかい、呼んで」
「……いいよ、ユキ」
 ユキ、ユキ、ユキ。これは僕の名前、僕だけのもの。あいつらの誰にも渡されないもの。
 マコトの、僕よりもたくましい体が僕を抱きしめる。体温を感じる。心臓の音がする。それでも足りない、全然足りない。
 自分で自分が分からなくなる。僕は何を嫌がってる? 僕は何に対してこんなにも腹を立てている?
 僕は、どうしてこんなにも怖がっている?

 あいつらと話しているときのマコトを思い出す。



3/26/2023, 5:59:55 PM