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あの雨の日の夕方、俺が予定もきかずに突然映画に誘ったら、先輩は「ごめん、子供を迎えに行かなきゃ。」と言った。
独身とばかり思いこんでた。子供もいるのか。
俺は秒殺された。家庭と仕事と子育ての3刀流、そりゃ仕事もテキパキとこなせるわけだ。
俺の表情が曇ったことを先輩は見逃さなかった。
「シングルマザーは大変なのよ。でも…。」一呼吸おいて先輩は続けた。「男の人に誘われたの何年ぶりだろう?子持ちのオバサンを、一瞬でも女性扱してくれたって、勘違いしてもいいかな?嬉しかった。ありがとう。」

え?じゃあ今は結局独身?
映画館の前で別れて先輩を見送った時、俺は小っ恥ずかしいが、恋に落ちたと思う。いや思うじゃない、恋に落ちた。

オバサンなんて言うなよ。1コしか違わないだろ。先輩がオバサンなら俺はオジサンか。
会社での先輩しか知らないけど、先輩は素敵な女性だ。誘ったことを嬉しいと言われて、胸の中がどれほど踊ったことか。
先輩の子供のことは正直悩む。嫌なのではなく、母子で既に構築された生活に、俺が割り込む隙があるのだろうかと不安なのだ。まずは先輩に俺を、俺がどういう人間かをよく知ってもらおう。俺も先輩をもっともっと知りたい。そこから始まるんだ。



お題「落下」

6/18/2024, 10:54:23 AM