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《掌編小説》【声が枯れるまで】
声が枯れるほど、頑張って応援したつもりはなかった。声が枯れるまで、自分がこんなにも心を動かされるなんて思わなかった。
あの日、あの場所で、彼は高校最後の夏を静かにひっそりと終えたけれど。彼ひとりだけが血の滲む努力をしていたのを、私だけが知っている。
腹の底から出た私の声も、必死にチームメイトに声かけする彼の声も、なにもかもがコートを取り巻く群衆の喧騒にのみこまれていった。
会場から出てきた彼のそばにかけ寄り、なんと声をかけようか迷っていた私に、彼は笑いかけた。
その痛々しい微笑に、ふつふつと腹の中が煮えてくる。
思わずパシッと力なく彼の顔をはたいてしまう。それでも彼は涙を流さず、微笑を浮かべる。ああ、そうか、と私は気づく。これが強さなんだ。
だから、私は声が枯れるまで彼の胸の中で泣いた。

10/22/2022, 3:11:01 AM