語り鳥

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【風に乗って】


夏休み。真っ青な空の下に建つ、白い家。その南側にあるサンルーム。ここに僕の思い出が詰まっている。

子供の頃、両親は共働きで家にいる時間があまりなかった。だから夏休みとなれば毎日のように祖母の家に行って過ごした。
祖母はその時もう古希を迎えようとしていたが、随分と元気でまだ仕事をしていた。
仕事と言っても家の近くにある小さな花屋を経営しているくらいだ。
それでも花に囲まれ生活しているからか、祖母はいつもおしゃれをしていて、少女のような雰囲気さえ感じられた。

僕は祖母の家に行くとほとんどサンルームで過ごした。本を読んだりするにも、食事をするにもずっとここにいた。
気が向けば手伝いもしていたが多くはない。


ある時、いつものようにサンルームで絵を描いていると道の向こうに誰かいるのを見つけた。
女の子だった。
僕と同じくらいの年齢のようで、ふわっとした白のワンピースにつばが大きめの麦わら帽子を被っている。
その女の子もこちらに気づいたようで、手を振ってみると、まさか庭に入ってきた。

ぱたぱたと小走りできたと思えばにこっと笑い、

「お友達にならない?」

と言ってきた。あまりにも突然すぎてしばらく意味がわからなかったが、ゆっくりと理解するとなんとなく頷いた。
やった!と声を上げ喜んでいる女の子。

「私ね、このお家の隣に住んでいるの。」

聞いてもいないことを教えてくれたが、不思議と迷惑だとは思わなかった。むしろ嬉しいような…



この出会いをきっかけに、僕と女の子はよく遊ぶようになった。
女の子は名前を花梨といい、カリンの花言葉のように豊麗、美しかった。

僕は花梨と遊ぶようになってからサンルームに篭もることも少なくなっていた。
それでも、一日に1回、絶対にサンルームにいるときがある。
紙飛行機を作るときだ。

花梨と知り合ってから、僕は今で感じたことの無い感情を抱いた。甘くて、それでいて苦しい…そんな気持ちだ。
きっとこれが恋なのだろう。
だから、いつでも花梨と一緒にいたかった。でも、こんな子供には無理すぎる話。

そこで僕は思いついた。文通すればよいのだと。

せっかく文通するのに普通の手紙じゃつまらない。また僕はひらめき、紙飛行機なら面白いだろうと花梨に提案した。
花梨はすぐに乗ってくれて、その日から文通を始めた。

最初に僕が送ることになった。さっそく書こうとしたが、なんだか祖母のいる前では書けなくてサンルームに来た。
ここなら花梨の家も見えるし、飛行機を飛ばすには絶好の場所だ。

手紙を書くなんてことは今まであまりしてこなかったから内容が思いつかない。結局在り来りな事を書いてしまった。

花梨
今日からよろしく。でいいのかな。
おばあちゃんが育ててるカリンがそろそろ咲くから今度見においでよ。
待ってる。


こんな事しか書けなかった。当時は中々だと思ったが、今思えばとんでもなくつまらない手紙だ。

書いた手紙を飛行機の形にして花梨の家へと飛ばす。


風に乗って飛んでゆく紙飛行機は、僕たちの思い出や恋も詰まっている。

4/29/2023, 12:46:21 PM