小さな葉っぱ

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 ショーウィンドウに飾られた純白のドレスを見上げながら考える。
 自分が着る時はどんな装いになるのだろう。此処にあるようなフリルをふんだんに使ったものか、マーメイド調のすらっとしたラインのものか、レースで彩られた大人の雰囲気が漂うものか。
 どのドレスを着る事になっても、晴れ姿を見せる両親が自分には居ない。生きていたら、父は感情を隠さず泣いていただろう。両親を思い出すと、どうしても目が潤んでしまう。
 それ以前の問題として『相手は?』と誰かにツッコミを入れられそうだが。
 不意に頭へ浮かぶ“彼”の存在。
 子供っぽくて大人で、イジワルなのに紳士で。何処か掴みどころのない雲のように飄々とした人。
 共に愛を誓うなんて全く考えられない間柄だ。ただのパーティー仲間、それが自分たちの距離。
 でも会う度に彼へ深くのめり込んでしまう。他者には決して見せぬ努力を偶然知ってから、更に好意の芽が吹いた。
 転びそうになった時に自分を支えてくれた腕の感触が、掴まれた手の感覚が、まだ抜けない。あの日からそれらの部分がなんだか熱いような気がして、不可思議に愛を強める。
 あの人の隣で、いつか着られたら――。
 街角のウエディングドレスは、穢れなき白さで眩いばかりの輝きを放っていた。

6/11/2023, 3:04:05 PM