初恋の日
初恋の日、なんて言われると、少し困ってしまう。
誰かを初めて好きになった日を指すのだろうけれど、振り返ってみると、その「初めて」は何度もあった気がするからだ。
小学校の頃、隣の席になった女の子が、消しゴムを半分に割って「使う?」と笑った日。
中学の帰り道、夕焼けの土手で並んで歩いた先輩の横顔に、胸が妙に苦しくなった日。
社会人になってから、疲れた顔で缶コーヒーを渡してくれた人の優しさに、心が温かくなった夜。
どれも長く続いた恋ではない。
名前も、声も、今では少し曖昧になっている。
それでも、その瞬間だけは確かに世界が輝いて見えた。
恋というのは、不思議だ。
未来を約束してくれるわけでもないのに、人を少しだけ優しくする。
電車の窓に映る景色が美しく見えたり、意味もなく空を見上げたり、小さな出来事を大切に思えたりする。
だから僕にとって「初恋の日」は、一日ではない。
誰かを好きになり、そのたびに世界を新しく見つけた日々、その全部なのだと思う。
人はきっと、恋をするたびに、少しずつ生まれ変わっているのかもしれない。
5/8/2026, 2:18:37 AM