世界は彼を子供ではいさせてくれなかった。強くあれと無責任に幻想ばかりを押し付けて無垢な感情の何もかもを彼から取り上げ、そうして彼を大人にしてしまった。まだ柔らかさの残る輪郭に世界を見下ろす昏い眼差し。アンバランスなそれが私は恐ろしい。彼が私の知らない誰かになっていく。
どうしたら彼を救えるだろうか。
私は考える。考えて、考えて、そうして思いついた。引きずり下ろせばいいのだ、彼をあの冷たい玉座から。彼の持つ全てを私が代わりに背負って彼を自由にすればいいのだ。
天啓だと思った、もうこれしかないと。私の頭は冴え渡っている。今ならなんでも出来そうな全能感に溢れて思わず哄笑した。
ああ、愛しき彼の人よ
首を洗って待っていろ、私が取り戻すのだ。彼の天色が再び私を優しく見つめる時を。
何もかもが上手くいってまた手を取り合える日が来たならば、月明かりを頼りに星空の下、ふたりだけでワルツを踊ろう。
4/5/2024, 2:22:09 PM