つくね

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僕はどこにでもいるような”普通な男”。普通に仕事をして、趣味を普通に楽しみ、普通に彼女もいないし、休みの日は友達と遊ぶ。

世間一般から見ても、どこにでもいるような”普通”であることを自負している。至って真面目に日々を過ごしている。この日々には刺激は無いが、悪くは無いと思う。

“普通”が1番いいと思っているし、悪目立ちしないよう、普通になろうとやってきた。これで良いのだと、これで人生を終えるんだと、そう思ってきた。

しかし、そんな矢先、身近な方が亡くなった。30代半ばの方だったが、とてもなくなるようには思えないような、元気で笑顔が素敵な方だった。

その方は僕の趣味の先生であり、この前も教わったばかりだ。そんな方が亡くなるとは想像もしていなかった。子供も生まれたばかりで、こんなに唐突に命が尽きるなんて。理解が追いつかなかった。

最後、その人に会いに行った。棺の中にいた先生は、寝ているだけのようだった。すぐ起きてきそうで、いつもみたいに明るい声が聞こえてきそうな気がしていた。

しかし、先生はその後、焼かれてしまった。意味がわからなかったし、今でもまだ理解できていない。勝手に、誰しも80歳くらいまで生きれるのだと思っていたが、死は誰にも平等に、かつ唐突にやってくることを思い知った。

先生がいなくなってから、自分はその先生に代わり、人に教える立場になった。先生から教わったように、先生の真似をして教えてみても上手くいかない。先生には一生敵わないなと思った。

僕は毎回、生徒に教える前に、亡くなった先生に手を合わせて話していた。いつもは一方的に話して終わるのだが、その日は先生が舞い降りてきて、こう言った。

「君は僕になれない。僕も君にはなれない。僕を慕ってくれて、同じやり方をしようとしてくれるのは嬉しいけど、君は自分のやり方で人に教えた方がいい。君にしかできないことがあるはずだから。」

目を開けると、そこに先生の姿はなかった。声だけが脳内に聞こえてきた。僕は先生の穴埋めをしようと必死になっていた。先生の真似をしていたが、到底先生には届かない。

そんな僕のことを先生は見ていてくれたのだと思うと、先生の体はなくても、魂はまだ生きているような気がした。

それから先生の声が聞こえてきたことはないが、先生は今も見守ってくれているのだと思う。先生が残してくれたこの場所を、次は僕が、僕のやり方で守っていきたい。

7/27/2024, 10:36:03 AM