ポメ

Open App

ある深夜、珍しく目を覚ます。
いつも規則正しく生活をしているので、こんな数時間で目を覚ますのは稀な事であった。
すぐにまた眠れるだろうと思って目をつぶるも、やけに頭が冴えてしまった。
観念して起き上がり、水でも飲もうかと共用キッチンへと向かう。歯を磨いてしまったので、部屋に常備しているオレンジジュースを飲む気にはなれなかった。

「あれ、轟くん……?」
エレベーターを降りると、すぐに見慣れた髪色が目に入る。
共有スペースのソファーに彼はいた。
「なんだ、飯田か。珍しく夜更かしだな」
そういう彼は未だ寝ていないようだった。
「俺は目が覚めてしまったんだが、君はまだ寝ていなかったのかい?寮の消灯時間は過ぎているよ!」
委員長として注意をする。
「……悪い」
何処か轟の様子が可笑しい。
「何かあったのかい?」
ソファーの隣に腰を下ろす。特に体調が悪いようでも、疲れているようでもない。
「……いや、大丈夫だ。ちょっと目が冴えただけだから、すぐ寝るよ」
そう言って彼は何か言葉を飲み込んだように見えた。自分の不甲斐なさが悔しい。
「そうかい、何かあればすぐに言ってくれたまえよ」
「あぁ、委員長」
そう言って笑う轟の表情は弱々しかった。
「俺はホットミルクを作ろうと思って来たんだ。良かったら君も飲まないかい?」
咄嗟に口から出た言葉だった。
返事を聞くより早く立ち上がり、手早くコップを二つ手に取り、準備をする。
「すぐに出来るから待っていてくれ」
返事はないが、立ち上がらない所を見て安心した。
レンジで温めている間に、棚を眺めると蜂蜜を見つけた。
もう歯を磨いてしまっているが、安らぎを与えようと温まった牛乳に蜂蜜を回し入れた。湯気からふんわり優しい匂いがのぼってくる。
「どうぞ」
彼の前にコップを突き出す。
「あぁ、ありがとう」
轟はコップを受け取り口元で湯気を感じて何度か息を吹き掛けて、口を付ける。
「……美味いな」
轟の顔がほころんでいるのを見て、胸を撫で下ろした。
「これを飲んだら一緒に部屋に戻ろう」
そう言って自分も口を付けた。

今でもこの日のホットミルクの味を、ふと思い出す事がある。

5/18/2024, 5:38:02 AM