荼毘

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「棺」

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テーマ「どうしたらいい?」

私は血を吸って暮らしている。人間の血。
今日もいつものように、人間のふりをして、夜の街を散歩していた。
私は暗くて狭いところが好きだ。そんな場所を求めて街を練り歩く。
その日は教会の近くを通りかかった。
その教会の敷地は広く、周囲は電灯に照らされている。
敷地内の庭に黒色の落ち着いた装飾のされた木製の棺があるのを見て足を止めた。棺は四つあった。どの棺にも蓋には十字架が刻まれている。
近頃葬式があったのだろうか、それともその準備だろうか。私はその棺に少し興味を持った。
中に入って眠りたいと、そう思った。
次の日もその教会の方へ歩いて行き、庭の外から棺を眺めていた。しばらく眺めていると、あるアイディアを思いついた。庭に棺は四つもある、一つなくなったところでバレても大事にはならないだろうし、今夜だけ借りて明日には元の位置に戻しておけば良い。そう思った。
私は好奇心が勝って行動に移った。まず、あたりを見回したが人影はない。電灯であたりがよく見えるので間違いないと思う。逆に言えば私の姿はよく見える。人間に見つかってしまう可能性が高いので、すぐに棺を持って、近くの屋内に入る必要がある。私は棺を担ぎ、少し離れたところにある廃墟の教会にこっそり入り込んだ。窓のない部屋を探していると、地下室への入り口を見つけた。私はラッキーだと思った。地下への階段を降りていき、電気をつけた。その地下室はどうやら教会の備品を置いておく部屋だったようだ。今はもう使われていないだろう。私はそこに棺を移しさっそく中へ入った。
やはり、この木製の棺の中は心地が良かった。今夜はもう眠りについて、明日起きたら元の庭へ戻しに行けば良い。そう思った。だが、問題は今夜の内に起こった。
私がウトウトして眠りに落ちそうにしている時に、天井から足音が聞こえてきた。私の眠気はさっぱり冷め、すぐに棺から出ようと思ったが、どうやら人間は1人ではないらしい。もし地下室へ複数の人間が来たらいくら私でも叶わないだろう。この街では私の噂は少なくない。自警団が結成されているという話も聞いたこともある、中には銀の弾丸を持っている人間もいるだとか。ここは棺の中で、地下室の扉が開かれないことを祈るしかない。
だが、その懸念は現実になった。扉が開いた音がして、階段を降りる足音が近くなってくる。「こんなところに隠れたのか?」「大きな箱を担いでいたらしい」そんなら声も聞こえてくる。もう棺の中で息を潜めるしかない。この人間達は、ここに誰かが入っていくのを見たという近隣の人からの通報を聞いて来たのだろう。私の考えが甘かった。

11/22/2023, 11:00:13 AM