月園キサ

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#猫好き画家の花村さん (NL)

Side:Saho Asakawa



今年は早くも梅雨入りしたと、今日の天気予報で知った。

雨の日が多くなると真っ先に思い浮かぶのは、晴れの日に必ず庭に出て可愛い野良猫ちゃんをモデルに絵を描いている画家のお兄さん…花村京さんのことだ。


「そういえばこの間の雨の日に見かけたときは、どこかつまらなそうにしてたなぁ…」


…そもそも、花村さんって絵を描く以外で好きなことってあるのかな?
絵を描いているところしか見たことがないような?

そして私はどうしてこんな時まで花村さんのことばかり考えているの??


「…ねぇフランシス、レイチェル…これって恋なのかなぁ?」


毎日のように愛でているドールのフランシスとレイチェルに話を聞いてもらったところで、私のこの悩みが消えるわけもなく…。

あいにくの雨の日だけど、私は気分転換のために散歩に出かけることにした。
これで少しでもこのモヤモヤとした気分が晴れると信じて。


「行ってきます…」


お気に入りの空色の傘をさして家を出ると、パラパラパラと傘に当たる心地よい雨音が私を包み込んだ。

どこに行くかは特に決めていない。ただ気ままに歩き回るだけ。
花村さんのことは一旦忘れて…


「…あ、浅川さん?」

「!?」


…って、え〜っ!?このタイミングで本人登場ですか!?

突然話しかけられたことにびっくりしすぎて固まっていると、黒い傘をさした花村さんが私の視界の端からひょこっと顔をのぞかせた。


「あ…驚かせてごめんね。これから買い物に行こうかなと思って家を出たら、浅川さんが家から出てきたのが見えたから…」

「い、いえっ!私もまさか花村さんもこれからお出かけするところだったとは思わなかったので…」

「…浅川さん、もしかして今…あんまり元気ない?」

「…へっ…?そんなそんな!元気ですよ、私!」


…いけない。悩みに悩みまくっているせいか、花村さんに私の心を見透かされている気がしてドキッとしてしまった。

でも…これで元気がないと正直に言ってしまったら、構ってちゃんだと思われてしまうかもしれない。


私は慌てて傘で自分の顔が見えないようにして、いつもの明るく元気な自分を演じようとした。


「ただのお隣さんな私が言うのも何だけど…今の浅川さんは普段に比べて声に元気がないように感じてならないんだ」

「そんなわけないじゃないですか!へへ…たまたまですっ」

「じゃあ…浅川さんさえ良ければだけど、私の買い物に付き合ってくれないかい?もしかしたら、これが浅川さんの気分転換になるかもしれないし」

「ほあっ!!?」


花村さんのお買い物に…私が…!?
むしろ私でいいんですか…!?
花村さんってば、こんな日も眼鏡の奥の目が優しい…。

今日だけで花村さんへの好きメーターが、一気に1000メモリくらい上昇した気がした。


「も、もちろんです…!一緒に行きたいです!」

「え、ほんとに?良かった…じゃあ、近くのスーパーまで行こうかな」


こんなラッキーなことがあるなら、雨の日が大半を占める梅雨も悪くないかも。

私はいつの間にかあんなに悩んでいたことなんて忘れて、花村さんと並んで歩きながらのお散歩を楽しんだ。




【お題:梅雨】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・花村 京 (はなむら きょう) 29歳 画家
・浅川 沙帆 (あさかわ さほ) 24歳 ドール服デザイナー

6/1/2024, 12:07:01 PM