「さよならを言う前に」
さよならを言う前に、少しモジモジする。
まだ夕日の名残が残り、空の低い位置に色を持たない白い月が浮かんでいる。今日を終わりにするのには少し早い。今日の目的は果たしたけれど、もう少し一緒にいたい。くだらない話をして笑っていたい。
でも、私は時間的に余裕があるけれど、あの子は帰ってからやることがあるのかもしれない。明日のための支度があるのかもしれない。私のわがままで他人の時間を奪うわけにはいかない。
「それじゃあ、またね。気をつけて。」
できるだけ自然な笑顔を作ってそう言う。
地下鉄の駅に向かって歩き出すあの子の背中を見送る。しばらく歩いたその背中が、ふと立ち止まり振り返る。目が合うと、少し照れくさそうにあの子が言った。
「ね、もう少し時間ある?お茶しない?」
今度は作る必要もなく、自然な笑顔が自分の顔に浮かんだのが分かった。
「私もそう思ってた!」
8/20/2024, 1:50:23 PM