【瞳を閉じて】
昔から妄想が好きだった。小説を読めば自然の映像化が行われ、行ったことのない場所や普段出来ない体験を脳内で堪能していた。ベットに入り瞳を閉じれば、夢を見る前から既に夢が始まっていた。
しかしこの癖が、今現在悩みの種と化している。
「はぁ〜お似合いだもんなぁ〜。あれは確定だもんなぁ〜」
何度目か分からない寝返りをうって、薄暗い天井をぼんやりと見つめる。瞳を閉じなくとも例の光景が浮かび、閉じれば捏造された映像がどんどんと溢れてくる。いつの間にか時計の針は進み、未だ眠りにはつけていなかった。
例の光景。それは、片想いをしていた先輩が女子生徒と一緒にいる光景である。女子生徒はよりによってうちのクラスの一軍で、ギリ二軍ぐらいの私からすればキラキラ輝く遠い存在だ。先輩は物静かで読書好き(私調べ)だが、案外ああいう明るい子がタイプなのかもしれない。それに整った顔が2つ並ぶと、何ともお似合いだったのだ。
「う〜。告白すればよかったかなぁ〜」
2人はきっと、おしゃれなカフェでデートをする。先輩が文庫本に夢中になっているところに彼女が現れ、「小説よりあたしのこと見てよ」なんて台詞をぶちかます。大きなパフェだってシェアすれば美味しくいただける。いちごを頬張る彼女を先輩が愛おしそうに見つめて…
「ああっもう!」
妄想してるこっちが恥ずかしくなるじゃないか!!
と、親友からメッセージが届いた。親が厳しいはずだが、まだ深夜ではないためスマホを触れるのだろう。見慣れたアイコンをタップすると、衝撃的な文字が飛び込んできた。
『あの子、先輩の妹だって!』
妹…、いもうと!?
『勘違い!?』
急いでテキストを打つと、頷きのスタンプが返ってきた。
な、なんだぁ…。
盛大に胸を撫で下ろすと、途端に睡魔が襲って来た。
瞳を閉じて浮かんできたのは、美形兄妹が仲睦まじくパフェを食べている姿だった。
fin
儚い系が書きたかったけど、たまにはこういうのも。
1/23/2025, 11:41:19 AM