溺れるような感情の濁流の中を、もがき、溺れながらも必死に泳いできたつもりだった。
でも、此方がどれほどみっともなく泳いでいたとしても、そんな事はお構いなしに流れに乗ってどこまでも、それこそ世界の果てまで行ってしまいそうなあの人が、何を思ったか泳ぐのを止めたから。
あの人が振り返って、此方を見て。目が、合ってしまったから。
もう、それだけで。それだけで、十分だった。
一目惚れだった。その姿を追いかけて、ここまで泳いできた。追いかけて追いかけ続けて、ようやく遠目に背中が見えるくらいにまで近付いて。それが全部、全部、報われた気がした。自分の人生はこの一瞬の為に在ったのだと確信するほどに。
ゴポリと最後の酸素を吐き出す。身体中から力が抜け、抗う力を無くした肉体は瞬く間に濁流の中に攫われていく。
『また、おいで』
ーーああ、あなたはこんなにも残酷で、優しい事を言ってくれるのですね。初めて知りました。
幾度となく生を繰り返し、そろそろ疲れを覚えてきた頃だったのですが、どうやらまだまだ輪廻の輪から抜けられないようです。
4/16/2023, 10:15:16 AM